国産ウイスキーに、新たな船出。九州の蒸溜所の果敢なチャレンジとSMFLの新たなアイデアの実現

新たなビジネスチャレンジ。ウイスキー原酒在庫の動産担保融資(ABL)(前編)

大分県竹田市の津崎商事が営む「久住くじゅう蒸溜所」は、匠の心で酒造りと向き合うウイスキー工房だ。長期熟成の高品質酒を目指し、手間暇を注ぎ込んでいる。だがウイスキーの製造には、ビジネスとして根本的なジレンマがある。熟成に時間をかけるほど商品価値が高まる一方、熟成期間中は商品を出荷できず、売り上げが発生しないのだ。その困難に直面していた津崎商事にとって、三井住友ファイナンス&リース(SMFL)との出会いが突破口となった。同社の職人魂を知ったウイスキー愛好家のSMFL社員が、ウイスキーを対象に類のないファイナンススキームを提案。日本のウイスキー史におけるターニングポイントの1つとなるだろう両者のチャレンジを、前後編2回で紹介する。

「日本のウイスキー文化を次の100年につなぎたい」

津崎商事 代表取締役社長
宇戸田 祥自 氏

琥珀の色が美しい。華やかに香り立つ。それでいて味わいはどこまでも深い──。そんなウイスキーの魅力に引き付けられた人物が大分県竹田市にいた。酒販業を営む津崎商事の代表取締役社長 宇戸田祥自氏である。「よし、やろう!」と、狭く険しい道に踏み出す覚悟を宇戸田氏が決めたのは2015年のこと。ウイスキー製造業への新規参入だった。

「それまでに15年ほど、レアな輸入ウイスキーや、国内の蒸溜所が造る高品質ウイスキーを中心に販売事業を営んでいました。根っからのウイスキー好きなんですね。だから地元の久住町くじゅうまちに自社蒸溜所を設立することは、ずっと抱いてきた大望であり、半面、 “ 零細な酒販業である私たちにとってはウイスキー蒸溜所の建設だけでも大変な挑戦、ましてや長期熟成の高品質ウイスキーの製造は難しいだろう ” と諦めかけていた夢でもありました。そんな折、2014年ごろでしょうか、国内外で日本のウイスキーへの人気が顕在化してきたことで需要が一気に高まりました。自分の人生に一度限りの夢に挑むチャンスが巡ってくるとすれば、今がその時だ。逃したら二度とチャンスは来ない──そう思って決心しました」(宇戸田氏)

SMFL FA&S推進部 上席部長代理
小野寺 一磨

SMFL FA&S推進部の小野寺一磨も自他共に認めるウイスキー好きである。心中にある危機感が芽生えたのは、2017年ごろのことだった。

「日本で初めてウイスキー蒸溜所が設立されたのが1924年。その後、約80年をかけて2000年前後にようやく国産ウイスキーの評価が世界で高まりました。ところがその半面、品質は玉石混交と言わざるを得ない状況が見え始めたのです。このままでは日本ウイスキーに冬の時代が来てしまうのではないかと危惧していました」(小野寺)

その思いが、小野寺の胸の内に1つの「志」を醸していった。「一方で、優れたウイスキーを懸命に造っている製造者はいます。そのような蒸溜所を支え、日本のウイスキー文化を次の100年につなぐ手助けを、SMFLの社員として担いたい──そんな思いを強くしていました」(小野寺)

ウイスキー製造の高い壁。7年の歳月を、いかに乗り越えたか?

どんな苦難も承知の上。覚悟して歩を踏み出した宇戸田氏がまず乗り越えなければならない壁が2つあった。「資金」と「技術」だ。特に資金調達は、想定以上に高い障壁だった。

「蒸溜所の場所だけは、ウイスキー造りに適した旧酒蔵の土地建物をどうにか自己資金で買いました。でも必要な設備はまだある。マッシュタン(糖化槽)※1、発酵槽、ポットスチル※2。加えて、樽を貯蔵保管するウェアハウス(熟成庫)※3の敷地と建設の資金も……」(宇戸田氏)

資金調達に絡んでとりわけ厄介なのが「酒造免許」の問題だった。「酒造業への新規参入は非常にハードルが高いのです」と、宇戸田氏は振り返る。「設備資金の融資を金融機関に相談する場合、当然、免許もない業者にお金なんて貸せないことが一般的だと思います。では免許を取得するため官庁の窓口を訪ねたらどうなるか? 手順を尋ねたところ、『新規免許取得には建屋、設備、技術、運転資金、販路、その他法的に必要な許認可などが全て得られることで正式な申請受理となり、審査を経て問題がなければ免許交付になる』という旨の回答でした。つまり当時の私どもにとっては完全に八方ふさがりです」(宇戸田氏)

窮状を打開したのは、もう1つの「技術の壁」を宇戸田氏がよじ登り始めたことだった。かねて良き相談相手として宇戸田氏の挑戦を温かく見守ってくれていた先輩蒸溜所が、宇戸田氏と社員1名の技術研修を受け入れてくれたのだ。「免許を得るには『技術研修を受けた』ことの証明も必要なのです。本業(酒類販売)の傍ら、1週間研修を受けては商売に戻り、また1週間の研修を……と重ね、ノウハウをゼロから学んで身に付けました」(宇戸田氏)

「技術の壁」をクリアした宇戸田氏の指が、「資金の壁」のわずかな凹凸に触れた。その指先に全力を込めるかのように、宇戸田氏は「少人数私募債※4」に賭けた。全国を駆け回って50名未満に限定した出資候補者1人ずつと対面し、思いを訴え、理解が得られた人だけに出資を頼んだのだ。情熱と職人魂が多くの出資候補者の賛同を得た。集まった資金で設備と隣接敷地のウェアハウス(熟成庫)を整え、晴れて免許も得て、「久住蒸溜所」を本格稼働。ついに初蒸溜にこぎ着けた。「やろう!」と誓ってから足かけ7年、2021年2月のことだった。

だが、資金面の課題が全て解決したわけではない。さらなる難題が残っていた。それは、初出荷までに必要な継続的な「運転資金」。ウイスキーは蒸溜し樽に詰めた後、最低でも3年間熟成させて初めて「ジャパニーズウイスキー※5」として商品化できるのである。

久住蒸溜所の設備(一部)

写真は左から、ウイスキーの原材料となる大麦麦芽、マッシュタン(一部)、発酵槽、ポットスチル。必要な設備は蒸溜所の考え方により異なる。芳醇な香りを目指す久住蒸溜所の中は、麦汁が酵母や乳酸菌により発酵し、熟した果実のような甘い香りに満ちている

久住蒸溜所の熟成庫内のカスク(樽)(一部)

(写真左)2,500Lのもろみから、まだ熟成や調整を施す前の、蒸溜したてのウイスキーの原液(ニューメイク)が300Lできる。毎週10本ほど生まれるニューメイクのカスク(樽)は、久住蒸溜所内に2つある熟成庫で熟成され、透明に近い色から琥珀色へと変化していく。なお、ウイスキーファンに久住蒸溜所の存在を知ってもらうために、不定期・数量限定ながらニューボーン(短期熟成のウイスキー)も発売される。写真右は、7カ月の熟成で2022年に初めて発売された久住蒸溜所のニューボーン
  • ※1円形の撹拌用容器で、中に入った粉砕後の麦芽と熱湯を混ぜ合わせる。「仕込み槽」ともいう
  • ※2もろみを蒸溜してアルコール濃度を高めるのに用いる銅製の釜。「単式蒸留器」ともいう
  • ※3ウェアハウス(熟成庫)は酒税法の規制により、蒸溜所の敷地内に設けることが原則。離れた場所に設けた場合は樽の移送に伴い、原酒の移し替え、度数と容量の計測など、5~10倍もの手間がかかる
  • ※4身近な少数の人から事業資金を募るための資金調達手段
  • ※5日本洋酒酒造組合が自主基準で定めた表示。基準の詳細はこちら

SMFLの「シードコンテスト」が、意志を貫く後押しとなった

「シードコンテスト」は、新規ビジネスの種(シード)になり得る多様なアイデアを全社的に募り、競い合うSMFLのビジネスアイデアコンテストである。入賞者は会社からの支援を受けて、事業化を目指す。2019年度に第一回を開催し、これまでに4回実施してきた※6

SMFL ネクストビジネス開発部長
伏見 博幸

コンテストの事務局を務めるSMFL ネクストビジネス開発部長の伏見博幸がこう話す。「シードコンテストは、ビジネスモデルの変革を目指し、継続して新規ビジネスの開発に取り組む施策です。当社で事業化する理由に重点を置き、既存事業と相乗効果が期待できるプランなどを幅広く募集し、事業化を検討・推進していくことが目的です」(伏見)

「ウイスキー業界に冬の時代が来る前に、優良メーカーの誠実な酒造りを支援したい。危機的状況に一矢を報い、これからの100年につながるウイスキー文化の創出を手伝いたい。そのために自分に何ができるのか」──小野寺が自問を重ねていたとき、2021年度のシードコンテスト開催が迫っていた。

そして小野寺は、一つの答えを出す。ウイスキーの価値に依拠し、動産担保融資(ABL※7)を軸とした《国産ウイスキーファイナンス》。シードコンテスト応募のタイトルである。

小野寺のアイデアは総数148件のなかを突破し、最終選考に残った。「残念ながら入賞は逃しました。ですが、『時が経つほど価値が高まる』というウイスキー原酒の特性に、コンテストの審査を担当した役員が着目してくれたのです。経年劣化する一般的な担保とは正反対です。加えて国産ウイスキーの輸出額が過去数年急増していたことも着目してくれた理由の一つだと思います」(小野寺)

動産担保融資(ABL)が実行された前例はSMFLをはじめ、ほかのリース会社でも極めて少ない。ましてや「ウイスキー原酒」を担保にするなど類がなかった。だが、励ましがあった。「コンテストの審査を担当した役員が『SMFLならではの強みを発揮できる可能性がある。やりがいもあるだろう。ぜひ、事業化に挑戦すべき』と後押ししてくださり、2022年4月にプロジェクトチーム(以下:PT)が結成されました」(小野寺)

大きな助言もあった。最終選考に際し、こんな言葉をコンテストの審査を担当した役員からかけられていたという。「『新規事業をやり通すモチベーションを1人で維持するのは難しい。仲間がいた方がよい』とアドバイスされたのです。この時、すぐにある同僚の顔が思い浮かびました」(小野寺)

SMFL アグリフードビジネス推進室 室長代理
冨岡 寛

社内で知られたウイスキー好きが、もう1人いた。SMFL アグリフードビジネス推進室の冨岡寛である。小野寺から誘いを受けた際の印象は「少し驚いた」記憶として冨岡の心に刻まれている。「こんなことをやろうとしている人がいたのか、と。それまでは面識がある程度の間柄だったのですが、最後は小野寺の熱意に引き付けられました。同じウイスキー好きとして、国産ウイスキーのためにできることがあるなら、共に走り抜けたいと」(冨岡)。PTの結成は、2人が組んで行った最終プレゼンのたまものだった。

  • ※6開催初年度には200件近くのアイデアの応募があった。2023年度からは内容の精度と実現可能性をより高めるべく、応募条件として事前研修(Web1回+ワーキングディスカッション3回)への参加を求めている
  • ※7ABLはAsset Based Lending の略で動産担保融資のこと。企業の事業価値を構成する在庫(原材料、商品)や機械設備、売掛金などの資産を担保とする融資を指す。資金の借り手と貸し手の緊密なコミュニケーションと協力関係に基づいて実施される

「探していた蒸溜所が見つかった」 事業化へ始動

「ある意味、売ってはいけない商売なんです」。ウイスキー造りに伴うジレンマを、宇戸田氏はこう語る。「熟成には最低3年かかります。高品質の長期熟成ウイスキーならば10~20年。その間、毎年4~5%は蒸発してしまう。100樽を13年寝かせれば50樽に減る。でも熟成を待つ間、売り上げは発生しません。樽ごと他社に売れば別ですが、それでは私が目指す、しっかり長期熟成させて『久住』のブランドを冠したウイスキーは、永遠に日の目を見ないことになります。長期熟成をファイナンス面でサポートしてくれる金融機関を求めていました」(宇戸田氏)

当てがあったわけではない。PTを立ち上げ、事業化に向けて始動した小野寺と冨岡も、“ ウイスキー愛 ” は人一倍あるが業界の内情には通じていなかった。そもそも「ABLのニーズがあるのか」「あるとして、どこの事業者に提案すればよいか」──全てが、霧の中だった。

着手したのは、業界の研究と情報収集をはじめとする「事業の研究開発」だ。全国に100カ所近くある蒸溜所のなかから、工程・品質・評判を軸にまずは10社ほどをターゲットとし、人づてを頼りに足を使って話を聞き回った。さらには、日本のクラフト蒸溜所の雄を訪ね、相談に乗ってもらった。

「世にまだ1本も製品を出していないが、注目している蒸溜所が大分にある」
「サンプルの提供を受けて試飲したところ、非常にハイレベルで驚いた」──業界の実力者らがそんな形容を添えて紹介したのが、津崎商事の久住蒸溜所だった。

「ようやく見つかった」「すぐアポを取りましょう!」──小野寺と冨岡がうなずき合った。

(後編に続く)

(内容、肩書は2024年3月時点)

お問い合わせ

アグリフードビジネス推進室 
TEL:03-5219-6724

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